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ユニバーサルデザインによる色覚バリアフリー
色覚バリアフリーの推進
色覚特性とは?
色覚特性のある人の割合
色覚特性への対応と現状
色覚特性への人権の視点
色覚特性に配慮した色の組み合わせ
色の組み合わせ
色選び
文字に色を付ける
グラフや概念図
図の解説の仕方
学校の講義や授業で
その他
色覚バリアフリー の推進
人権に関わる様々な課題のひとつに、社会参加を妨げる障壁をなくし、誰もが主体的に参加できる社会づくりがあります。このようなバリアフリーという考え方は障害者の人権問題をはじめ様々な分野で積極的に導入が進められ着実に成果を上げつつあります。
色覚特性という言葉をお聞きになったことがありますか。例えば、色分けされた統計グラフの配色が読みにくいとか、地下鉄の路線図がわかりにくいという経験は誰でも持っていると思いますが、色は誰でも同じように感じ取れるわけではなく、色覚特性を持った人にとってはそれが全く判別できないことがあります。
この色覚の障壁(バリアー)を解消し、案内表示、印刷物、パソコンの画面などを誰もが見やすいものにしていこうというのが「色覚バリアフリー」の考え方です。
「色覚特性」の呼称について
色の識別がしにくい状態については、いわゆる「色盲」「色弱」「色覚異常」「色覚障害」などいろいろな呼称が用いられています。どの呼称を使用するかについては、意見の分かれるところですが、和歌山県においては原則として「色覚特性」という呼称を用いています。
色覚特性とは?
人が経験している色はすべて、赤・緑・青の3つの基本色からなり、眼の網膜にも光の3原色に対応する3種類の視物質があり、知覚するすべての色はこの3種類の視物質から作られます。
色覚の基本となるしくみを仮に赤機構、緑機構、青機構と呼ぶことにすると、赤機構を欠いているか変異のあるのが眼科学的診断による「第1色覚異常」、緑機構を欠くか変異のあるものが「第2色覚異常」です。ほかに青機構を欠いているか変異のある「第3色覚異常」がありますが、極めてまれです。このような仕組みにより色覚特性が発現するのです。
(※この項では色覚特性のメカニズムの説明のため眼科学的診断で用いる「色覚異常」という言葉を使用しています。)
(参照「色覚問題に関する指導の手引き」(平成元年3月)文部省)
色覚特性のある人の割合
日本人の場合、男性の5%、女性の0.2%が色覚特性があるとされています。フランスや北欧の男性ではその割合は10%にまで増加します。全世界の人口を65億人とすれば色覚特性を持つ人は約2億人、AB型の血液を持つ男性の数に匹敵します。このように色覚特性は決して珍しい現象ではありません。
その大多数は、遺伝性です。染色体遺伝子の構造によって男性に多く遺伝します。
色覚特性への対応と現状
色覚特性は、3種類に大別され、人によって見え方はさまざまですが、赤が緑に見えるとか、モノクロームの世界に見えるなどの誤解があります。このような誤解をつくり出している原因の一つとして小学校で使われてきた色覚検査表(石原式検査表)があるのではないでしょうか。
この検査表は、最も見づらい色の組み合わせで構成された非常に厳しい検査表であり、検査する際の部屋の明るさ、検査表までの距離や角度、プライバシー保護に関する配慮など検査方法について十分理解して細心の注意を払い検査を実施しないと、正確な判定は望めずプライバシーも守れません。
色覚特性があると、入学試験や就職で相当制限があるように思われていますが、入学についての制限はかなり改善されてきました。医歯薬学部などでは、制限がなくなりましたが、商船関係の大学など制限を加えている大学や専門学校もあります。
また国家試験や資格試験、免許のなかには制限を設けているものもありますが、今後制限の見直しが進むこともありますので確認することが必要です。
色覚検査で「特性」があると判定されるものであっても、大半は支障なく業務を行うことが可能であり、単に色覚検査の結果のみで、個々の職業について個人の向き・不向きを断定することはできません。職業選択の幅を狭めることがないよう正しい理解を促進していかなければなりません。2001(平成13)年7月には、業務に特別の支障がないにもかかわらず採用制限することのないよう、雇い入れ時健康診断における色覚検査が廃止されるなど、労働安全関係省令の改正が行われています。
また、色覚特性があると判定される児童生徒でも、大半は学校生活に支障はないという認識のもと、2003(平成15)年4月から学校における児童生徒等の定期健康診断の必須項目から色覚検査が削除されています。
色覚特性への人権の視点
色覚特性は異常ではなく、背の高い人、低い人があるのと同じように、その人の「特性」と考え受け入れることが必要です。色覚特性には個人差があり、特定の色が見づらいといってもその度合いは人によって異なり、一口で説明は不可能です。だからこそ「異常がある」と一言で片づけず、その人の特徴を正しく理解しなくてはいけません。
また、色覚特性があるとわかると、「これは何色?」「これとこれはわかる?」など、矢継ぎ早に色について質問することはすべきではありません。このときの受ける側の気持ちを考えて下さい。普段ちょっとした色が見えずに困ったり、苦しんだりしている人にとって、この質問は大変な苦痛になるのです。
色覚特性があると言っても、色を見分けるのがいわゆる「正常な人」とほとんど変わらない人もいますし、一部の色の見え方が全く違っている人もいますで、一律に「とても不都合だ。」とか「全然不都合がない。」とか決めつけてることはできません。最近では、制限や差別がなくなりつつありますが、問題を封じ込めることなく、周囲に対しても正しい理解を求めていく必要があります。
色覚特性に配慮した色の組み合わせ
黒の背景に赤と青で文字を書いた場合、色覚特性のない人には赤が鮮やかで、青が沈んで見えますが、色覚特性のある人にとっては、逆に赤が沈み青が明るく目に飛び込んでくる傾向があります。また、文字が細くなればなるほど読みづらくなります。
携帯電話などの充電ランプや、駅の電車の行き先を示す発車時刻表の電光掲示板に使われている発光ダイオード(LED)の赤、緑、オレンジも大変区別しづらく単色の表示に見えたりします。しかし、同じ赤と緑の組み合わせでも交通信号機はきちんと赤と緑(青信号)を区別できるようになっています。交通信号機はより短波長側(寒色系)の緑を使用することが国際照明委員会で厳密に定められ、日本でも「JIS安全色光使用通則」によって規定されています。電気製品などの発光ダイオード(LED)も、緑にこのような短波長側の緑を使えば区別して見やすくなります。
色覚特性に配慮した色の組み合わせということで例えば、少し以前の教科書では緑の日本列島にリンゴの出来高を「赤丸」ミカンの出来高を「オレンジの丸」で表記するなど、「赤と緑」の組み合わせが多く使われていました。一方、欧米の教科書は「赤と青」「青と黄」の組み合わせが多く使われます。
「赤と緑」は違いがわかりにくい
「青と黄」は違いがよくわかる
色の組み合わせ
- 暖色系と寒色系、明るい色と暗い色を対比させる
- パステル調の色どうしではなく、はっきりした色と対比させる
- 赤系統と緑系統との直接の組み合わせはできるだけさける
- 区別しにくい二色を並べる際には「黒線」や「白ヌキ線」あるいは「黄色」で区分するなどの工夫をする
- 同系統の「明度差の少ない色」を並べないようにする
明度は対比しているが暖色系同士
暖色寒色は対比しているが明度が近い
明度も対比、暖色寒色も対比
「白ヌキ線」で区分すると読みやすい
境界線を追加し、同じ色相で明るさを変化させるとわかりやすい
色選び
- 赤は濃い色を使わず朱色やオレンジに近い色を選ぶ
- 黄と黄緑は色覚特性のある人には見分けがつきにくい
- 暗い緑は赤や茶と間違えやすいので青みの強い緑にする
- 細い線や文字には、黄や水色を使わない
- 明るい黄は白内障の人は白と混同しやすくなる
- ピンクは水色と混同しやすい
- 茶色は明るさや鮮やかさで様々な色と混同しやすい
- 白黒でコピーしても内容が識別できるか確認する
文字に色を付ける
- 背景と文字にはっきりとした明度差を付ける
- 線の細い明朝体ではなく線の太いゴシック体を使う
- 色だけでなく、書体(フォント)、太字、傍線、囲みなど形での変化を併用する
カレンダーなどで、明朝体など線の細い文字を使う場合、赤と黒が判断しにくくなります。このような場合は文字を反転させる、太いゴシック体などにかえることで見やすくなります。
グラフや概念図
- 色情報だけで認識させず、明度や形状の違いや、文字・記号の併用で変化を与え、色に頼らなくても情報が得られるように工夫する
- 塗り分けには色だけでなくハッチング(網掛け)を併用する
- モノクロでも情報が得られるようデザインし、色は「装飾」程度と考える
- 輪郭線や境界線で、塗り分けの境を強調する
- 線は実線、点線、波線など様々な線種と色とを組み合わせる
- 図と凡例という離れた2点間での色の照合を省くため、図の脇に凡例をつけず、図中に直接書き込む
図の解説の仕方
- 「色が見分けられれば色名もわかるはず」と考えない
- 色名だけで対象物を示さない
学校の講義や授業で
○黒板の場合
- クラス(受講者)には必ず色覚特性のある人がいると意識する
- チョークは白、黄以外は見えにくい
- 赤チョークはほとんど見えないので使うなら朱色のチョークを使う
- 色分けには文字、記号、ハッチング、縁取りを活用する
○ホワイトボードの場合
- 黒、緑、赤のマーカーはそれぞれ見分けにくいので、黒と対比するときは青もしくは明るい赤を使う
○色の名前について
- 色覚特性のある人は色を見分けられても色の名前がわからないことがある
- 生徒に色名を答えさせる質問はしない(とくに大勢の前では絶対に)
その他
- 受付や誘導案内を色分けする場合、番号や名称などを併記する
- 案内板表示は大きくわかりやすい文字を使い、コントラストのはっきりした色を使う
- 絵記号を使う場合は文字表示も併せて行う
(参考: 細胞工学 別冊「色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション」/秀潤社)
ここに記載したいろいろな留意点はパンフレットや、広告、ホームページなどに当てはめて考えられるのではないでしょうか。何も特別なものを用意することも特殊な技術を必要とすることもありません。ただ、配色に気をつけるだけなのです。
色覚特性を持つ人にわかりやすい色づかいは、色覚特性を持たない人にとっても、わかりやすい色づかいでもあります。ほかのバリアフリー対策に比べ、色覚バリアフリーは配色にわずかな気配りをするだけで、追加のコストをいっさいかけずに達成できます。この大きな特徴を有効に活用し、すべての人に見やすい、ユニバーサルなデザインづくりを心がけたいものです。